「カマボコ無添加への道」(平成十八年二月:島菜の本⑨)

島菜々子

2008年07月18日 00:31

⑨平成十八年二月 無添加物語「カマボコ無添加への道」
   


『島菜激震』
 2月6日、いつものように「いなむるち」の仕込みを始めたキッチンの山岸はカマボコのパッケージに成分表示のシールを見つけ、そして驚いた。なんとそこには「調味料(アミノ酸)」と表示がされているではないか…。店内に激震が走った。このアミノ酸はまぎれもなく化学調味料である。事前調査では、化学調味料を使っていないと取引業者から説明を受けている。しかも前日までの仕込みの時には、成分表示のシールは貼られていなかったのである。

『推測専攻』
 仕入れ担当の美里の長く忙しい一日が始まる。化学調味料が入っていないと確認したカマボコになぜアミノ酸が添加されていたのだろうか?まずは、現商品の確認作業である。商品が変わった?…何の前告知もなかった。発注ミス?…業者が在庫をチェックして足りなくなったら自動発注というカタチなのでそれはない。納品ミス?…今日も同じ人が配達したので可能性は低い。そもそも同じものなのか??…見た目には同じに見える。まさか○○では?…推測では答えは出ないと判断をして取引業者に電話をする。

『業者平謝』
 取引業者の担当者のAさんは「化学調味料なし宣言」に好意をもってくれている協力者である。彼のカマボコメーカーへの調査によると、微量ながら化学調味料を使用しているとのこと。どれくらい微量かというと事前の口頭での確認で「未使用」って言ってしまうくらい…。とにかく事前の調査報告にミスがありましたと平謝りのAさんをこれ以上責めることは得策ではない。それより彼には化学調味料の入っていないカマボコを今すぐ探してもらわなくてはならないのである。

『社内会議』
 「お客様に申し訳ない」…その日の夕方行われた島菜の会議はその言葉から始まった。化学調味料なし宣言に賛同いただいてご来店くださったお客様に申し訳ない。それがたとえ誰も気がつかないくらいの微量だったことは関係ない。代替品を一日も早く探すことはもちろんであるが、それまでの間「いなむるち」をどうするかで意見は割れた。その段階では化学調味料が入っていないカマボコがすぐ見つかるか、そうではないかということさえもわかっていなかったのである。

『オーナーの決断』
 いなむるちにカマボコは絶対欠かせない。「化学調味料なし宣言」を優先し、いなむるちをメニューから下げるべきなのだろうか。しかしこの寒い時期に人気のいなむるちである。楽しみに来店したお客様はどうなる?お客様の立場に立てば立つほど結論が難しい。会議が長引きそうと感じた瞬間、オーナーの安和が「ありのままを公開して、お客様に判断してもらおう」と決断を下した。メニューのいなむるちの横に貼る「微量の化学調味料入り」の説明シールの製作が会議終了後、即座に行われた。

『自分に立腹』
 仕入れ担当の美里の表情が芳しくない。三業者を窓口に十数件のカマボコメーカーに問い合わせているのだが、化学調味料なしのカマボコがなかなか見つからないからである。見つからないというよりも、探せば探すほど「化学調味料なしのカマボコ」はありえないということを感じていた。各メーカーの声をまとめると、「化学調味料が入っていないカマボコは味がなくてまずい」という話になる。カマボコには化学調味料は入っていて当たり前の添加物なのだろうか?
 そして美里は4ヶ月前の自分自身に腹が立っていた。こんなに難しいことと知っていれば決して「化学調味料無添加ですよ」という業者の口頭での報告にOKは出さなかったと…。

『オリジナルカマボコ』
 化学調味料なしのカマボコを探すことは無理であるという判断が下った。ならば作るしかない。自社で作るには設備費がかかり過ぎるので、メーカーにオリジナルカマボコの生産を委託するという形になる。しかしほとんどのメーカーから「そんなまずいカマボコは作れない」という答えが返ってきた。まずいかどうかの判断は自分たちでしなくてはならない。なぜなら自分たちはカマボコ販売店ではない。カマボコのみの味ではなく、カマボコが入ったいなむるちという料理の味を確認しなくてはならないからである。

『ついに完成』
 取引業者の担当者のAさんが、化学調味料なしのカマボコを作ってくれるメーカーを探し出してくれたのは、発覚からちょうど1週間たった時でした。特注品なので小ロットの見本品の制作は無理ということで、十キロ単位の注文となる。OKなら即使用、ダメなら十キロ廃棄という緊張の試食会、結果は全員一致合格となった。更に今までよりも上品な味がするというプラスの意見も複数あがった。現在の沖縄食堂島菜のいなむるちのカマボコの決定の瞬間である。

『いなむるち上がりー』
 スタッフたちはいなむるちを楽しそうに作っている。是非、耳を澄ましてキッチンの奥の声を聞いてみて欲しい。「いなむるち上がりー」の声に今まで以上に元気があるのがわかるはずである。

     
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